子どもたちの読書の時間: 7 分
ハリーは怠け者でした。毎日ヤギを牧草地に連れていく他に何もやることがありませんでしたが、一日の仕事を終わって家に帰ると、呻くように言いました。「まったくきつい仕事だな。こんなふうに毎年毎年、秋遅くまで、野原にヤギを連れていくのは疲れる作業だよ。横になって眠っていられたらなあ、だけどだめだ、ちゃんと目を開けてなくちゃいけない、そうしないとヤギが若木を食べたり、垣根を通りぬけて庭に入ったり、逃げたりしちゃうから。いったいどうやって休んで楽しく暮らせるんだ?」
ハリーは腰をおろし、あれこれ考えをめぐらし、どうしたらこの重荷を肩からはずせるか考えました。しばらく考えてもどれも役にたちそうもありませんでしたが、突然目からうろこが落ちたようになりました。「わかったぞ!こうするんだ。」とハリーは叫びました。「太っちょトリーナと結婚するんだ。あいつもヤギを飼っているから、おれのヤギも一緒に連れ出してくれるさ。そうしたらおれはもう骨折ってやらなくてよくなるぞ。」
そこでハリーは起きあがり、かったるい脚を動かし、通りをすぐ横切り、太っちょトリーナの両親がすんでいるところに行きました。というのははそれだけしか離れていなかったからです。そして、働き者で身持ちのよい娘さんと結婚させてください、とお願いしました。両親は長く考えていませんでした。(類は友を呼ぶということだ)と二人は考え、承知しました。それで太っちょトリーナはハリーのおかみさんになり、ヤギを二頭とも連れ出しました。ハリーは楽しく過ごし、骨休みが必要な仕事はなくなって、自分の怠ける仕事だけが残りました。ハリーはたまにはおかみさんと出かけて、「こうするのはあとでもっと休みを楽しむためなんだ。そうしないと休みをなんとも感じられなくなるからさ。」と言いました。しかし、太っちょトリーナも負けずおとらず怠け者でした。
「ねえ、あんた」とある日トリーナは言いました。「私たち、必要もないのになんで骨折って暮らしてるの?そうして若くていいときが台無しじゃない。あの二頭のヤギをお隣にあげたらよくない?とってもいい気持ちで眠っているのに毎朝メエメエ鳴いてうるさいじゃないの。代わりにミツバチの巣箱をもらいましょう。家のうしろの日当たりのいいところに巣箱をおいたら、もう面倒がないわよ。ミツバチは世話したり、野原に連れて行かなくていいもの。自分で飛んでいって自分で帰る道をみつけるでしょ。それでちっとも面倒をかけないで蜂蜜を集めてくるのよ。」
「物分かりのいいことを言うね。」とハリーは答えました。「早速やろうじゃないか。おまけに蜂蜜はヤギの乳よりうまいし、栄養があるんだ。長持ちもするしな。」隣の人は二頭のヤギのかわりにミツバチの巣箱をひとつ喜んでくれました。ミツバチは疲れを知らず朝から夕方遅くまで巣箱から出たり入ったりして、とてもすばらしい蜂蜜で巣箱をいっぱいにしました。それで秋にハリーはつぼにいっぱい蜂蜜をとることができました。二人は寝室の壁にとりつけられた棚板の上につぼを置きました。盗まれたりネズミが見つけたりするのが心配なので、トリーナは太いはしばみの棒を持ちこみ、無駄に動かないでその棒に手が届き、招かれざる客を追い払えるように、ベッドのそばにおきました。
怠け者のハリーは昼前にベッドから出るのは好きでありませんでした。「早起きするやつは」とハリーは言いました。「身上を食いつぶすっていうよ。」ある朝、明るく日が照っているのにまだ羽根ぶとんに寝そべって、長く眠った後の休みをとっていましたが、おかみさんに「女ってのは甘いものが好きで、お前はいつもこっそり蜂蜜をなめている。お前が食べてしまわないうちに、ひなと一緒のがちようと取り替えた方がいいよ。」と言いました。
「でも」とトリーナは答えました。「がちょうの面倒をみる子どもを生んでからの方がいいわよ。私はがちょうの心配をして意味も無く骨折って暮らすのかい?」
「こどもががちょうの世話をすると思っているのか?この頃では子どもはもう言うことをきかないぞ。自分の好き勝手なことをするんだ。両親より自分が賢いと考えてるからさ。牛を探しに行かされて三羽のつぐみを追いかけていたやつみたいにな。」とハリーは言いました。
「そう!」とトリーナは答えました。「言うことをきかない子ならひどい目にあわすわ。棒をとって数えられないくらい打ちすえてやるの。ほら、あんた」と熱中して叫び、ネズミを追い払っていた棒をつかみました。「ごらん、こうして打ちすえてやるのよ」トリーナは打とうとして腕を伸ばしました。しかし運悪くベッドの上の蜂蜜のつぼに当たってしまいました。つぼは壁にぶつかり下に落ちてばらばらになり、すばらしい蜂蜜は床に流れ出ました。
「がちょうとひながそこにいるわいな」とハリーは言いました。「そんで世話がいらなくなった。だけどつぼがおれの頭に落ちなくてよかったよ。起こったことに文句を言ってもはじまらない。」
そうしてまだかけらの中に蜂蜜がいくぶんか残っているのを見て、手を伸ばし、すっかり陽気に言いました。「残りがまだあるよ、お前、これを食べて、すこし休もう、びっくりしたあとだから。いつもより少し遅く起きたって構わないさ。一日はいつもたっぷり長いからね。」
「そうね」とトリーナは答えました。「いつもちゃんとした時間に一日の終わりになるものね。ね、知ってる?かたつむりがあるとき結婚式によばれて出かけたんだけど、子どもの洗礼式のときに着いたんだって。その家の前で垣根を転げ落ちて、『急ぐとためにならん』と言ったってよ。」