子どもたちの読書の時間: 12 分
昔、娘が三人いる金持ちの王様がいました。娘たちは毎日宮殿の庭園に散歩に行き、王様はあらゆる種類のきれいな木が大好きでしたが、特に大事にしている木があり、その木からりんごをもぎとる者は100尋(ひろ)地下にいけ、と願掛けしていました。収穫時期になると、この木のりんごは血のように赤くなりました。三人の娘たちは毎日木の下にいき、風で一個でもりんごが落ちていないかと探しましたが、まったく見つからず、木にはりんごがたわわに実り枝が折れそうになって地面に垂れていました。
王様の末娘はりんごが欲しくてたまらなく、姉たちに「お父様は私たちのことをとても愛してるのだから、まさか地下に行ってほしいと願わないわ。他の人たちだけにそうするんだって私は思うの。」と言って、話しながらかなり大きなりんごを一個もぎとりました。そして姉たちのところに走って行き、「食べてみて、お姉さんたち、こんなにおいしいもの食べたことないわ。」と言いました。それで二人の姉たちもそのりんごを食べ、三人ともおんどりの鳴き声の聞こえない地中深く沈んでいきました。
昼になると、王様は娘たちを食事に呼ぼうとしましたが、どこにも見つかりませんでした。宮殿や庭園のあちこちを探しても見つけられませんでした。それで王様はとても悲しんで、娘たちを連れ戻した者には娘たちの一人を妻に与えると国じゅうにお触れを出しました。そこでたくさんの若者が国じゅうを探しまわりました。その数は数えきれませんでした。というのは三人の娘たちは誰にもやさしく顔もとてもきれいだったのでみんながこの三人を好きだったからです。
三人の若い猟師たちも出かけていき、八日間旅をしたあと、大きな城に着きました。その城には美しい部屋がたくさんあり、一つの部屋には食卓があり、まだ暖かく湯気があがっているご馳走が並んでいましたが、城じゅうに人の姿も見当たらず声も聞こえませんでした。三人はそこで半日待ちましたが食べ物はやはり暖かく湯気があがったままでした。とうとうあまりにお腹がすいて三人は座って食べ始めました。そしてその城にとどまって暮らそうと相談しました。また、くじ引きで決めて、一人が家に残り、他の二人が王様の娘たちを探しに行くことにしました。
三人はくじ引きをし、一番上の兄にあたりました。それで次の日、二人の弟たちは探しにでかけ、兄は家に残らなければなりませんでした。昼に小さな、小さな小人がやってきて、パンを一切れくださいと言いました。それで兄はそこにあったパンをとり、かたまりから一切れ切りとり、小人に渡そうとしましたが、渡している間に小人が落とし、兄に、もう一度渡してくれと頼みました。兄は拾おうとしてかがみこむと、小人は棒を取り出し兄の髪をつかんでしたたかになぐりました。
次の日、二番目の兄が家に残り、同じ目にあいました。他の二人が夕方に戻ると、一番上の兄が、「それでお前はどうしてた?」と言うと、「いやあ、さんざんだった」と二番目の兄は言いました。それから二人で災難のことを話しあっていましたが、末の弟には何も言いませんでした。というのはこの弟を嫌っていたからで、世の中のことを知らないというわけで間抜けなハンスといつも呼んでいました。
三日目に末の弟が家に残ると、また小人がやってきてパンを一切れくださいと言いました。若者がパンを渡すと、小人は前と同じようにそのパンを落とし、また渡してくれと頼みました。するとハンスは小人に、「何だって?自分で拾うことができないのか?毎日食べるパンにそれほど手間をかけないようじゃ、食べるねうちがない。」と言いました。すると小人はとても怒って、拾え!と言いました。しかし弟は拾おうとせず小人をつかまえるとさんざんぶちました。それで小人は悲鳴をあげて、「やめてくれ、やめてくれ、放してくれ、そうしたら王様の娘たちがいるところを教えてあげる。」と叫びました。
ハンスはそれを聞くとぶつのを止めました。小人は、私はノーム(地中の小人)です、私のような小人は千人以上います、一緒に来れば王様の娘のいるところを教えてあげます、と言いました。それから弟を深い井戸に案内しましたが、井戸の中に水はありませんでした。小人は、あなたと一緒にいる仲間はあなたをまっとうに扱う気がないとよく知っていますよ、だから王様の娘たちを救いたければ一人でやらなければいけません、と言いました。
二人の兄さんたちも王様の娘たちを取り戻したがってはいますが、厄介なことや危険なことはしたくないんです、それであなたは大きなかごをもってきて、狩猟用ナイフと鐘をもってそのかごに座り下りるんです、下には三つの部屋があり、その部屋の一つずつに王女が一人います、頭がたくさんある竜のシラミをとっているんです、その頭を切り落とさなくてはなりません、これだけ話すと、小人は消えました。
夕方になると二人の兄が帰ってきて、どうだった?と尋ねました。それで弟は、「今のところ、うまくいってるよ。」と言って、誰にも会わなかったが、昼に小人が来て、パンを一切れくれと言ったんだ、パンをあげたんだが、その小人は落として拾ってくれと頼んだよ、だけどおれがそうしなかったもんで小人ががみがみ言いだして挙句はかんしゃくをおこしたのさ、だからおれはぶんなぐってやったよ、そうしたら小人は王様の娘たちの居場所を教えてくれたよ、と話しました。二人の兄たちはこれを聞いてとても腹を立てたので顔が緑や黄色になりました。
次の朝、三人はつれだって井戸に行き、誰が最初にかごにすわるかくじ引きをしました。するとまたもや一番上の兄が当たりました。兄はかごに座り、鐘を持たねばなりませんでした。すると、「おれが鈴を鳴らしたらすぐに引っ張り上げてくれよ。」と兄は言いました。少し下に下りると兄は鈴を鳴らし、二人の弟はすぐに引っ張りあげました。それから二番目の兄がかごに座りましたが、一番上の兄と全く同じにやりました。そうして末の弟の番になりましたが、底まで下ろさせました。
弟はかごから出るとナイフをとって最初の戸の外へ行って立ち止まり、聞き耳をたてました。竜がとても大きないびきをかいているのが聞こえました。ゆっくり戸を開けると、王女の一人が九つの竜の頭を膝にのせシラミをとりながら、そこに座っていました。それで弟はナイフを手に頭に切りつけ、九つの頭を切り落としました。王女はサッと立ち上がり、弟の首に腕をまきつけ、だきしめて何度もキスしました。それから純金でできたストマッカー(胸衣)をはずし弟の首にかけました。
それから二番目の王女のところに行くと、五つの頭の竜のシラミをとっていましたが、この王女も助け、末の王女は四つの頭の竜と一緒にいましたがそこにも行って助けました。三人とも大喜びで弟を抱きしめ何度もキスしました。
それから上にいる二人に聞こえるようにとても大きく鐘をならし、かごに王女たちを次々とのせ、三人を引っ張り上げさせました。ところが自分の番になると、弟は、仲間の人たちはあなたに良い感情をもっていないという小人の言葉を思い出しました。それで、そこに転がっていた大きな石を拾ってかごにのせました。かごが半分ほどあがると、上の不実な兄たちは綱を切り、石ののったかごは地面に落ちました。二人の兄たちは弟が死んだと思い、三人の王女と逃げていって、王女たちには、王様に助けたのは兄たちだと言え、と約束させました。そうして二人は王様のところへ行って、それぞれが王女様と結婚させてください、と言いました。
その間、末の弟はとても困って三つの部屋を歩き回り、ああ、ここで死ななければならないのか、と考えていました。すると笛が壁にかかっているのが目に入り、弟は「お前はどうしてそこにあるんだ?だれもここでは陽気になれないのに。」と言いました。
弟は竜たちの頭も見て、「お前たちももう役にたたないしな。」と言いました。長い間あっちこっち歩き回ったので地面がすっかり滑らかになりました。しかし、しまいには気を取り直して、壁から笛をとると、二、三音を出してみました。すると突然小人が何人か出てきて、一つの音を出す度に一人でてきました。そうして部屋がすっかりいっぱいになるまで笛を吹きました。
小人たちはみんな、ご用は何でしょう?と尋ねました。それで弟は、「上の光のあたるところに戻りたいんだ」と言いました。すると小人たちは弟の髪の毛を一本ずつつかんで、一緒に地上まで飛んでいきました。地上に出ると、弟はすぐに王様の宮殿へ行きました。ちょうど一人の王女の結婚式が行われるところでしたが、弟は王様と三人の娘たちがいる部屋に行きました。王女たちは弟をみると気を失いました。
それで王様は怒って、娘たちになにか害を加えたと思い、すぐに弟を牢に入れろと命令しました。ところが王女たちは気がつくと、王様に、あの方を自由にしてください、と頼みました。
王様が理由を聞くと、娘たちは、それを言うことは許されていないのです、と言いました。しかし父親は、それじゃストーブに言えばよかろう、と言って、出ていき、戸口で聞き耳をたて、全部聞きました。それで王様は二人の兄たちを縛り首にさせ、弟には末娘を与えました。
そのときに私はガラスの靴を履いていたんだけど、石にぶつけたら、カチャン、と鳴って壊れてしまったよ。

背景情報
解釈
言語
この物語「土の中の小人」は、グリム兄弟のメルヘン集に収録されている一編で、典型的なグリム童話の要素を多く含んでいます。物語の主要なテーマは、誠実さと勇気、そして不正に対する報いです。
物語の要約と構造:
王様と彼の三人の娘たち: 物語は金持ちの王様と彼の三人の美しい娘たちから始まります。特別に大切にしていた木のりんごを誰かが盗むことを恐れ、王様はその者を地下に追いやるという呪いをかけました。しかし、末娘がこの警告を無視し、りんごを取ってしまいます。
娘たちの失踪: りんごを取ったために、三人の娘たちは地中深くに引き込まれてしまいます。王様は娘たちを探し出した者に、彼女たちの一人と結婚させると約束し、多くの若者たちが探索の旅に出ます。
三人の猟師: 三人の若い猟師たちが探索に参加します。偶然、不思議な城にたどり着き、そこで暮らすことに決めます。順番に留守番をする中で、小人との遭遇があり、末弟のハンスだけが小人を打ち負かし、情報を得ることに成功します。
救出の試み: 小人からの情報を元に、ハンスは王女たちを救出する計画を立てますが、不誠実な兄たちが裏切り、ハンスを地下に取り残してしまいます。
ハンスの復活: 地下で困っているハンスは、小人たちの力を借りて地上に戻り、王女たちの結婚式を中断させます。王女たちが真実を告げると、王様は兄たちを処罰し、ハンスに末娘を与えます。
テーマと教訓
正直さと誠実さ: ハンスの誠実さが物語を進展させ、最終的に報われます。
不正への報い: 不正を働いた兄たちは最終的に厳しい代償を払います。
試練と成長: 猟師としての試練を通じて、ハンスは成長し、最後には幸運をつかみます。
この物語は、善行と悪行の結果を描いた古典的な教訓を含む、伝説的要素を持ったおとぎ話の一つと言えるでしょう。
この「土の中の小人」というお話は、グリム兄弟の童話の一つで、多層的なメッセージや象徴を含んでいます。この物語の主なテーマや解釈について考えてみましょう。
家族と嫉妬: 物語の中で、末っ子のハンスは兄たちから疎まれ、軽視されています。兄たちの嫉妬と裏切りは、家族内での競争や不信を象徴しているとも考えられます。兄たちの行動は、兄弟間の競争や嫉妬が時としていかに有害であるかを示しているかもしれません。
勇気と知恵: ハンスは、ノームとの出会いを機に、知恵と勇敢さで困難を乗り越えます。彼の行動は、困難な状況でも自主性と勇気を持つことの重要性を教えていると解釈できるでしょう。特に、困難な状況下での知恵と決断力の価値を強調しています。
正義と報酬: 物語の結末で、ハンスは報われ、兄たちは罰を受けます。これは、公平さや正義に基づいた報酬と罰があるべきであるという倫理的なメッセージを伝えていると解釈できます。結果的に、正直で善良な人が報いられることを示しています。
魔法と助力: ノームや小人たちの存在は、助けを求めることで得られる予期せぬ助力を象徴しているかもしれません。魔法的な助けは、主人公にとってのターニングポイントとなり、信頼や人との関係の重要性を示しています。
物語を読み解く際には、これらのテーマや要素を考慮することで、より豊かな理解が得られるでしょう。このような童話は、単なる子供向けの娯楽だけでなく、深い人生の教訓を含んでいます。
「土の中の小人」は、グリム兄弟による童話で、道義と不正がテーマの一つとして描かれています。この物語では、末の弟がその誠実さと勇気で困難を乗り越え、最後には報われます。一方、兄たちは不正を働くことで一時的に成功を収めようとしますが、最終的にはその行為が露見して罰せられます。
この物語の中で特に注目すべきは、地中の小人(ノーム)の存在です。小人は、物語の転換点で重要な役割を果たしますが、その登場の仕方や、末の弟とのやりとりには、民話や伝説にしばしば見られる超自然的な要素が反映されています。小人は試練として課題を与える存在でもあり、またガイドとしての役割も果たします。
言語学的な観点から見ると、この物語には口承文学特有のリズムと反復が見られます。三人の兄弟によるくじ引きや試練の三度の繰り返しは、物語に一定のリズムを与え、聞き手に期待感を持たせる効果があります。また、弟が竜を退治する際の細かな描写も、視覚的なイメージを強調するための文学的テクニックが用いられています。
最後に、物語の結末では正義が勝ち、不正が罰せられるという教訓的な要素が強調されており、この点も典型的な童話の特徴と言えるでしょう。