子どもたちの読書の時間: 10 分
昔、どの娘も他の娘におとらないくらい美しい12人の娘がいる王様がいました。娘たちはみなベッドが並んでいる一つの部屋で一緒に眠っていました。そして娘たちがベッドに入ると王様は戸に鍵をかけかんぬきをしました。しかし、朝に戸の鍵をはずすと、王様は娘たちの靴が踊りですりきれているのがわかり、だれもどうしてそうなるのか発見できませんでした。

それで、王様は、娘たちが夜どこで踊っているのか発見した者には娘の一人を妻に選ばせ、自分の死後王にする、但し、申し出て3日3晩のうちに発見できなかったものは命を差し出さねばならない、というお触れを出しました。
まもなく一人の王子が出て、この企てを引き受けると申し出ました。王子は暖かく迎えられ、夜には王女たちの寝室の隣の部屋に案内されました。王子のベッドはそこにおかれ、娘たちがどこへ行っておどるのか見ることになっていました。そしてこっそりと何かしたり他の場所に行かないように娘たちの部屋の戸は開けておかれました。しかし、王子のまぶたは鉛のように重くなり、眠ってしまいました。そして朝目覚めてみると、12人の娘はみな踊りに行ってきていました。というのは靴の底に穴があいていたからです。

2日目と3日目の夜も違いがなく、それで王子の頭は情け容赦なくうちおとされました。
このあと他にもたくさんの人が来て、その企てを引き受けましたが、全員が命を落としました。さて、怪我をしてもう務めることができなくなった貧しい兵士が王様の住んでいる町の道を歩いていると、一人のおばあさんに出会いました。おばあさんが「どこへ行くんだい?」ときいたので、「自分でもはっきりしないんだ。」と答え、冗談に「王女様たちがどこで靴に穴があくまで踊るのか見つけて王様になる、っていう気も半分あったんだが。」と付け加えました。「それは大して難しくないよ。」とおばあさんは言いました。「夜に持ってこられる葡萄酒を飲まないで、ぐっすり眠っているふりをしてなくちゃいけないんだよ。」そう言いながら小さなマントを渡し、「これを着るとお前さんの姿がみえなくなるよ。そうしたら12人の姫君たちのあとをこっそりつけられるよ。」と言いました。
兵士はこういう良いことを聞いて、本気になりだし、元気づいて、王様のところに行き、求婚者として取り次ぎをお願いしました。兵士は他のみんなと同じく暖かく迎えられ、王家の服を着せられました。その晩寝る時間になると控えの間に通され、もう寝ようとしたところ、一番上の王女様が一杯の葡萄酒を運んできました。しかし、兵士はあごの下にスポンジを結わえておいて一滴も飲まず葡萄酒をスポンジに吸い込ませました。それから横になり、しばらく寝ていたあと、深く眠り込んだかのようにいびきをかき始めました。12人の王女たちはそれを聞いて、笑い、一番上の王女が、「あの人も命を大事にしておけばよかったのにね。」と言いました。そうして起きあがり、衣装ダンスやいろいろな棚を開けて、可愛いドレスを取り出し、鏡の前で着て、跳びはね、踊りに行く期待で喜んでいました。ただ一番下の王女だけは「どうしてだかわからないけど、お姉さまたちはみんなうれしそうだけど、私はとても変な気分なの。きっと何か嫌なことがおこるんだわ。」と言いました。「おばかだねぇ。いつだってびくびくして。」と一番上の姉が言いました。「もうどれだけ沢山の王子たちがここに来て、無駄骨を折ったか忘れたの?あの兵隊さんに眠り薬をだす必要なんてほとんどなかったわ。どっちにしてもあの間抜けは目が覚めなかったわよ。」
すっかり準備ができると、王女たちは注意深く兵士を見ましたが、兵士は目を閉じて微かにすら動きませんでした。それで娘たちは十分安全だと思いました。それから一番上の王女が自分のベッドにいき、軽くたたきました。するとベッドはすぐ地中に沈んでいき、その開いた穴を通って、一番上の娘を先頭に、次々と降りて行きました。兵士はすっかりこれを見ていましたが、もう愚図愚図しないで小さなマントを着ると、末の王女のあとから降りて行きました。階段を降りる途中で、末の王女のドレスをちょっと踏みつけてしまい、王女はびっくりして「キャッ!誰なの?私のドレスを引っ張っているのは誰?」と叫びました。「馬鹿言わないでよ。釘にひっかけたのよ。」と一番上の娘が言いました。それで降り切ってしまい底に着くと、すばらしくきれいな並木道にでました。木の葉っぱが全部銀でできていて、輝き、キラキラしていました。兵士は、「証拠の印を持って帰らなくちゃ。」と思って、一本の木から枝を折りとりました。それで、木がボキッと大きな音をたてました。また末の王女が「どこかおかしいわ。ボキッという音が聞こえなかった?」と叫びました。しかし一番上の王女が「喜びで撃たれた大砲でしょ、私たちがとても速く王子から抜け出したから。」と言いました。
そのあと、葉っぱが全部金でできている並木道にきて、最後にきらびやかなダイヤでできている3番目の並木道にきて、兵士はそれぞれから枝を折りとり、そのたびに大きな音がしたので、末の王女はこわくてビクッと飛び上がりましたが、一番上の王女はやはり祝砲だと言い張っていました。さらに進んで12艘の小さなボートがある大きな湖に着きました。

そしてどのボートにもハンサムな王子が座って、12人の王女を待っていて、一人ずつ連れて行きましたが、兵士は末の王女のそばに座りました。すると王子が「どうして今日はいつもよりずっと重いのかな?渡るのに全力でこがなくちゃいけないな。」と言いました。「どうしてかしら?暑い気候のせい?」と末の王女が言いました。「僕もとても暑いよ。」湖の向こう側に豪華な光が明るくついたお城が立っていて、そこからトランペットやティンパニの楽しげな音楽が聞こえてきました。みんなはそこに漕いでいき、入って、それぞれの王子は自分の好きな娘と踊りましたが、兵士は見られずに一緒に踊りました。王女様の一人がワインを手に持っていたとき兵士はそれを飲み干してしまい、王女が口にもっていったときカップは空っぽでした。末の王女はこれに驚きましたが、一番上の王女がいつも黙らせました。王女様たちは午前3じまでそこで踊り、とうとう靴に穴が開きました。

それでしかたなくお別れをして、王子たちが湖を渡ってまた漕ぎ戻り、今度は兵士は一番上の王女のそばにすわりました。 岸に着くと王女たちは王子たちにお別れを言い、次の夜戻ると約束しました。階段に着くと兵士は走って前に行き、ベッドに寝て、12人の王女たちがゆっくり疲れて上ってきたときは、もう大いびきをかいていたので、みんなその音が聞こえました。それで王女たちは「この人に関しては、私たちは無事ね。」と言いました。娘たちは美しいドレスを脱ぎ、片づけて、ベッドの下にすりきれた靴を入れて、横になりました。
次の朝、兵士は話さないで素晴らしい成り行きを見ようと決心し、2晩目も3晩目も王女たちと一緒にでかけました。そしてすべては最初の時と全く同じで、毎回王女たちは靴がすりきれてぼろぼろになるまで踊りました。しかし、3回目は兵士は証拠の印としてカップを持ち去りました。兵士は答えを言う時間が来ると、3本の枝とカップを持って王様のところへ行きました。王様が、「私の12人の娘は夜靴がすりきれるまでどこで踊っていたのかね?」と質問をすると、「12人のの王子たちと一緒に地下のお城に行ってました。」と兵士は答え、起こったことを語り、証拠の印を取り出しました。それで王様は娘たちを呼び寄せ、兵士は本当のことを言ったのかと尋ねました。娘たちは、秘密がもれてしまい嘘をつくことは役にたたないとわかって、すべて白状せざるをえませんでした。それで、王様が「どの娘を妻にしたいかね?」と尋ねると、「私はもう若くありません。だから一番上の王女さまをください。」と兵士は答えました。それで同じ日に結婚式が行われ、王様が死んだあとの王国が約束されました。しかし、王子たちは12人の王女たちと踊った夜と同じ日数のあいだ魔法にかけられたままでした。

背景情報
解釈
言語
「踊ってすりきれた靴」は、グリム兄弟の有名な童話の一つです。この物語は、12人の王女たちが夜ごと秘密の場所で踊り、その結果翌朝には靴がすりきれている謎から始まります。王様は、娘たちの行動を突き止めた者には、娘の一人を妻として与え、将来的に王位を継がせると宣言します。しかし、失敗すれば命を失うという高い代償が付いていました。
多くの挑戦者が失敗する中、退役した貧しい兵士が偶然おばあさんに出会い、彼女から魔法のマントを受け取ります。そのおかげで兵士は透明になり、王女たちの後をつけることができるようになります。兵士は、王女たちが地下で12人のハンサムな王子たちと共に踊っている秘密を明らかにします。兵士は王様にその証拠を見せ、王女たちはその事実を認めざるを得なくなります。
最終的に兵士は、王様の約束通り王女の一人と結婚し、将来的には王国を継ぐことになります。これは、機知と勇気によって困難を乗り越え、幸運をつかむという教訓が込められた物語です。
物語は、魔法や冒険、そして少しの謀略が詰まった典型的なグリム童話の要素を備えており、読む者に教訓とファンタジーの楽しさを提供します。
「踊ってすりきれた靴」は、グリム兄弟によって収集された有名なドイツのメルヘンの一つです。この物語は、夜を通じて秘密のダンスを楽しむ王女たちと、彼女たちの秘密を解き明かす兵士の冒険を描いています。
物語の中で、王女たちは毎晩、地下の魔法の世界で王子たちとともに踊り明かし、その結果、靴がすりきれてしまうことに注目が集まります。彼女たちの秘密の活動に気付いた王様は、真実を解明する者には王女の一人を妻にし、王位を継がせることを約束しますが、失敗した者には命を差し出すことを要求します。
この物語のキーイベントは、賢い兵士が老人からのアドバイスと魔法のマントを使って見事に王女たちの秘密を暴く場面です。兵士は巧妙に王女たちの行動を追跡し、証拠を手に入れ、最終的には王の約束を勝ち取ります。
物語は、知恵と勇気が賞賛されるだけでなく、隠された真実を見つける探求が、どのようにして未知の世界を明らかにし、報酬をもたらすことができるかを示しています。また、物語は王女たちが次第に兵士の追跡に気づかない姿を通じて、安心しきった立場からの失脚や、隠れた真実が明らかになるという教訓的な要素も含んでいます。
「踊ってすりきれた靴(Die zertanzten Schuhe)」は、グリム兄弟が収集したメルヘンの一つで、王女たちが夜ごとにどこかで踊り明かしているという不思議な話を扱っています。この物語は、秘密、冒険、魔法の要素を組み合わせた典型的なメルヘンの特徴を持っています。以下は、この物語の言語学的および文化的な分析です。
語彙と文体: メルヘンでは、比較的平易な語彙が用いられ、シンプルで直接的な表現が多いのが特徴です。これにより、幅広い層の読者に理解しやすくなっています。
– 複数の人物が登場し、彼らの会話を通じて物語が展開されるため、直接話法が頻繁に用いられます。
構造: 物語は、問題提起、冒険、解決という典型的な3部構成になっています。この構造は、読者が物語の流れを追いやすくするためのものです。
– 序盤で提示される謎(すりきれた靴)が物語の軸となり、中盤での兵士の探査、終盤での解決という流れは、物語の緊張感と興味を持続させます。
テーマとモチーフ: 夜、不思議な場所への訪問、魔法のマント、試練といったファンタジーの典型的なモチーフが使用されています。
– 王女たちの秘密を暴くというクエストは、好奇心や知恵の重要性を示唆しています。
文化的背景
ジェンダーと階級: 王女たちが選ばれる対象である一方で、勇敢な行動の主体は男性キャラクター(兵士)である点は、物語が語られた当時のジェンダー観を反映しています。
– 貧しい兵士が王様の計画を成功させることで報われる展開は、「下剋上」や「幸運による社会的上昇」というメルヘンによく見られるテーマを含んでいます。
道徳と教訓: 知恵と勇気により、兵士は成功を収めることから、知識と機知の重要性が強調されています。また、王女たちの秘密が明らかになることで、真実を隠すことの無意味さも示唆しています。
– 契約や約束(王女たちの秘密を暴くことでの見返り)に対する異なるアプローチも描かれており、道徳的な選択や責任の重さについて考えさせられます。
この「踊ってすりきれた靴」は、ただの物語以上に、当時の文化や社会観、さらには普遍的な人間の特性に対する洞察を深める一助となります。このメルヘンは、現代においても多くのメディアで再解釈され、語り継がれています。