子どもたちの読書の時間: 8 分
昔、二人の兄弟がいて、二人とも兵士として務めましたが、一人は金持ちで、もう一人は貧乏でした。すると貧しい男は、貧乏から抜け出そうと思い、兵士の服を脱ぎ捨て、お百姓になりました。男は少しばかりの土地を掘り起こし、かぶの種を播きました。種は芽を出し、一つのかぶが大きく丈夫に育って、みるみるうちにだんだん大きくなっていき、とどまる様子がありませんでした。それでかぶの王女と呼んでもよいくらいでした。というのは後にも先にもそんなに大きいかぶは見られないだろうからです。とうとうかぶは巨大になり、それだけで荷車いっぱいになったので、荷車を引くのに牛が二頭必要になりました。お百姓はかぶをどうすればよいか、そのかぶが自分にとって幸か不幸か、まるきり見当がつきませんでした。
おしまいに、(売ったら、大した金にもなるまい、自分で食べたとしても、まあ、小さなかぶだって味は同じだ、王様のところへ持って行って差し上げた方がよさそうだ)と考えました。そこで荷車にかぶを積み、二頭の牛に引かせて、王様のところへ持って行って贈り物にしました。「何とも珍しいものだ」と王様は言いました。「不思議な物はたくさん目にするが、こんなおばけかぶは初めてだ。どんな種からこのかぶはできたのかね?それともお前は幸運の申し子でたまたまそうなったのかね?」「いえいえ」とお百姓は言いました。「申し子なんかじゃございませんとも。私は貧しい兵士で、もう暮らしが立たなくなったので兵士の服を釘にかけ、畑を耕すことにしたのです。」
「私には兄が一人いて、その兄は金持ちで王さまもよくご存知ですが、私ときたら、何もないので、誰も目にとめてくれません。」それで王様は可哀そうに思い、「お前を貧乏から救いあげ、贈り物をやって金持ちの兄と同じくしてやろう」と言いました。それから王様は、たくさんの金貨と土地と牧草地と家畜をお百姓に与えてすごい金持ちにしたので、兄の財産は比べものにならなくなりました。金持ちの兄は、貧乏な弟がたった一つのかぶで手に入れたもののことを聞くと、羨ましく思い、なんとかして自分も同じような幸運を得られないものかと考えました。
ところが、兄は弟よりもっと賢いやり方でそれにとりかかり、王様はお返しに弟よりもっと大きな贈り物をくれるだろうと信じ込んで、金と馬をもって王様のところへいきました。弟は一つのかぶであんなに貰ったのだから、こういう素晴らしいもののお返しならどんなものをいただけるだろうと期待したのです。王様は贈り物をうけとり、お返しには、あの大きなかぶ以外に珍しくすばらしいものはない、と言いました。
それで金持ちの男は弟のかぶを荷車に積んで家に持って帰らせるしかありませんでした。家で、兄は誰にこの怒りをぶつけたらよいのかわかりませんでしたが、しまいに悪い考えが浮かびました。弟を殺そうと決めたのです。兄は殺し屋を雇い、待ち伏せさせておき、弟のところへ行って、「なあお前、隠された宝物のことを知ってるんだが、一緒に掘り出して山分けしよう。」と言いました。弟は承知して、疑わずについていきました。二人が歩いていると殺し屋が弟に襲いかかり、縛って木に吊るすところでした。しかし、ちょうどこうしているときに、大きな歌声と馬のひづめの音が遠くから聞こえてきました。それで殺し屋たちは仰天し、とらえた男を急いで袋に押し込んで枝に吊るし、逃げて行きました。ところで、弟は吊るされたままごそごそやって袋に頭を出せるだけの穴を開けました。
やって来た男は他ならぬ旅をしている学生でした。その若者は歌を歌いながら楽しく森で馬を乗り回していたのです。上にいる弟は下を通っている男を見て、叫びました。「やあ、君は良い時に来たね。」学生は周りを見回しましたが、声がどこから来ているのか分かりませんでした。とうとう、「僕に呼びかけているのは誰なんです?」と言いました。
すると返事が木の上からきました。「目をあげてごらん。この上で知恵の袋に入っているのさ。ちょっとの間にすごいことを覚えたんだ。これに比べたら学校で習うことなんてお笑いだよ。もうじきありとあらゆることを覚えてしまい、誰も及ばないほど賢くなって下りていくんだ。星座や風の動き、海の砂、病気の治し方、薬草の使い方、鳥や石もみんなわかってるさ。あんたも一度ここに入れば、どんな崇高なことが知恵の袋から出て来るか感じ取れるさ。」
これを聞いて学生は驚いて、「あなたに会えてよかったなあ。私もちょっと袋に入れてもらえないですか?」と言いました。木の上にいる男は気がすすまなさそうに、「ちょっとなら入れてあげよう。あんたが金を払っていい言葉をかけてくれたらね。だけど、あと一時間は待っていなくちゃだめだよ。袋を貸す前にあと一つ覚えなくちゃいけないんだ。」と言いました。学生はちょっと待っていましたがじれったくなり、すぐ入らせてくれませんか、と頼みました。早く知恵が欲しくてたまらなくなったのです。
それで、上にいる男はとうとう頼みに折れたふりをして、「知恵の家から出るから、綱を引きおろしてくれ、そうしたらあんたが入れるから。」と言いました。それで学生は袋を下ろし、結び目をほどいて弟を自由にしました。それから、「さあ、すぐに私を引き上げてください」と叫び、袋に入ろうとしました。「待てよ、それじゃだめなんだ」と弟は言い、学生の頭をつかんで袋の中でさかさまにし、しっかり縛ると、知恵の弟子を綱で木の上に引き上げました。そうして袋を揺らしながら、「どうだい?君、そら、もう知恵がやってくるのを感じるだろう。君は貴重な経験をしているぜ。もっと賢くなるまでじっとしてるんだぜ」と言いました。そうして学生の馬にまたがると行ってしまいました。しかし、一時間すると、人をやって学生を出してやりました。

背景情報
解釈
言語
この物語はグリム兄弟による「かぶ」というタイトルのメルヘンです。物語は二人の異なる性格の兄弟が中心です。一方の兄は裕福で慎重であり、もう一方の弟は貧乏で機転が利くタイプです。
物語の核となるのは、貧しい弟が育てた巨大なかぶです。このかぶをきっかけに弟は王様から予期せぬ富を手に入れます。一方、裕福な兄は弟の成功を妬み、同じように王様から報酬を得ようとしますが、結局は弟の育てたかぶを贈り物として返されるという皮肉な結末を迎えます。
さらに、兄の嫉妬はエスカレートし、弟を亡き者にしようとします。しかし、弟は巧妙に危機を脱し、むしろ策略を用いて自身の安全を確保します。この部分は、物語の中で弟が賢く立ち回り、その機転で危険を回避することを示しています。
全体を通してこの物語は、単なる運や財産よりも、機転や知恵が重要であることを示唆しており、また、嫉妬や欲望がもたらす悲劇的な結果にも警鐘を鳴らしています。グリム兄弟の多くの物語と同様に、教訓や道徳的な要素が随所に盛り込まれています。
このグリム兄弟の物語「かぶ」は、いくつかのテーマや教訓が含まれています。以下はそのいくつかの解釈です:
幸運と努力:
– 物語は、幸運だけでなく努力や誠実さが実を結ぶことを示しています。貧しい弟は、慎ましさと誠実さで報われますが、兄は自身の欲深さから罰を受けます。
嫉妬と貪欲:
– 兄の嫉妬と貪欲さが、彼の失敗を招きます。他人の成功を妬むことは自身に禍を呼ぶことを示しています。
贈り物の価値:
– 物の価値は相対的であり、贈り物に込められた思いや特異性が重要です。弟はただのかぶを贈ることで莫大な報酬を得ましたが、兄は豪華な贈り物に見合うものを期待しすぎたため報われませんでした。
策略と知恵:
– 弟が知恵を用いて危機を脱し、さらに学生をもてあそぶ場面は、機知と知恵の重要性を示しています。
このように、「かぶ」の物語は、貧乏な弟と金持ちの兄の対比を通じて、多くの教訓を伝えています。弟の真面目な性格と運が最終的に報われた一方で、兄の欲望と誤った思いが悲劇につながっている点が印象的です。
このグリム兄弟の物語「かぶ」は、古典的な教訓を持った民話の一つです。この物語にはいくつかの重要なテーマや教訓が含まれています。以下はそのいくつかを分析したものです。
質素と運の関係
物語の中で、貧しい弟は偶然にも巨大なかぶを育て、それをきっかけにして富を得ます。この物語の重要なメッセージの一つは、予想外の場所や方法で運が転がり込む可能性があるということです。
嫉妬とその帰結
金持ちの兄が弟の幸運を妬み、同じような成功を収めようとしますが、結局はうまくいかず、自分の行動によって自らを窮地に追いやります。嫉妬が人をどのように誤った行動に導くかを示しています。
知恵と愚かさ
弟が自分に降りかかった危機を機転を利かせてかわすシーンが描かれています。弟は状況を逆手に取り、機知を活かして危機を切り抜けます。このことから、知恵の重要性とその扱い方を学ぶことができます。
贈り物とその意味
弟が巨大なかぶを王様に贈るシーンは、贈り物の価値が必ずしも物理的なものや金銭的なものに依存しないことを示しています。純粋な気持ちや誠実な行動が重く見られることを教えています。
結論
この物語は、物質的な富よりも知恵や誠実さの方が重要であることを伝える例として、また嫉妬や欲望がもたらす結果についての警鐘として機能しています。物語の背後にあるメッセージは、時代を超えて普遍的なものであり、現代においても多くの教訓を与えてくれます。